1976年にNASA(米国航空宇宙局)の火星探査機ヴァイキングが打ち上げられ、その着陸機が火星表面に降り立ちました(図1)。
ヴァイキング着陸機の前に立っているのはアメリカの天文学者カール・セイガン(1934–1996)です。この写真は、彼の奥さん(アン・ドルーヤン)が送ってくれたものです。着陸機は実物大模型なので大きさが分かりますね。ヴァイキングから周辺を撮影した画像が届いたとき、みんな驚きました。地面は赤いし、空はピンク色だったのです(図2)。
【火星の地面はなぜ赤いのか】
火星は、地球から見ても赤い色をしていますよね。そのため、昔の人は火星人がいつも戦争をしていて火事になっていると考えていたみたいです。火星を英語でMars(マーズ)と呼ぶのは、ローマ神話に登場する戦争の神様マルスが語源だそうです。行ってみると本当に火星表面の大部分が、赤っぽい土や岩で覆われていたのです。そこの土壌を分析すると、酸化鉄をたくさん含んでいました。みなさんは錆びた鉄を見たことがありますか(図3)。「酸化鉄」といいます。火星の地面は酸化鉄の色だったんですね。
では、なぜ火星の空はピンク色なのでしょうか。地球の空は青いのにね。「この宇宙の片隅に」の11月4日付「火星の大気(5)火星で夕焼けを見ると……(その1)」を読み返してみてください。そこに地球の昼間の空が青く見える理由を書きました。復習しておきましょうか。
【地球の昼間の空はなぜ青いのか】
地球大気に入り込んだ太陽の光は、主としてチッ素分子や酸素分子によって散乱されます。チッ素分子や酸素分子は、太陽の光の歩幅(波長)よりかなり小さいので、「レイリー散乱」を受けます。レイリー散乱は歩幅の短い光ほど激しく散乱します。すると、歩幅の長い赤っぽい光は散乱しにくく、歩幅の短い青っぽい光は散乱しやすいことになりますね。光が長い旅をすればするほど、青系統の色はどんどんあらゆる方向に散らばっていき、赤系統の色はそれほど散らばりません。太陽のいない方向からくる光は、あまり赤い光がなくて、あちこちに散乱されまくった青い色ばかりが届く──これはレイリー散乱が原因だったわけですね。じゃあ火星は?
【火星の昼間の空はなぜピンク色なのか】
実は火星の大気の主成分は二酸化炭素なのですが、非常に薄いのです。大気に含まれている分子が地球の1%もありません。それと、火星表面には水がないので、大気が水蒸気を含んでいませんね。すると気温の差の調整が効かないので、大気の上下方向の温度差が原因で、絶えず地表の土の微粒子が吹き上げられて、砂嵐が起きているのです。火星大気には、ちょうど光の赤い色の歩幅(波長)ぐらいの微粒子がいっぱい浮いているのです。それはもうレイリー散乱ではなく、「ミー散乱」の影響を大きく受けることになります。そして赤い光が一番散乱を受けやすいために、空は赤っぽくなってしまうわけです。
さて、地球の夕焼けの話はすでにしましたね。火星の昼間の空が赤いなら、じゃあ火星の夕方はどうなるのかな?赤い空がそのまま赤い夕焼けになるなら、大して変化がないから何だが劇的ではないですね。みなさんも予想をしてみてください。その解答は次回に。