夕焼け小焼けで日が暮れて 山のお寺の鐘が鳴る
お手々つないでみな帰ろ からすと一緒に帰りましょ
私が小さい頃は、毎日そんな生活をしていました。昼間に青い空の下で友達と野球をして、ふと気がつくと薄暗くなっている。東の空を見るとなぜか赤っぽく染まった空。ああ、もうこんな時間だ。オナカがすいた……。家路につきながら眺めるのは、図1のような夕焼けでした。さっきまで青かった空が、どうして東の山の端あたりだけは赤くなるんだろう?? あーした天気になーれ。
人類が将来火星に住む時代がきたら、子どもたちは図1のような夕焼けを眺めることができるのでしょうか。そんなことを想像しました。この想像の結論を出すために、順序を追って推理して行きましょう。
まずは晴れている昼間、この地球の空がなぜ青いのか、図2のようになる理由を考えてみましょう。図2には真昼の太陽もありますよ。図1と比べてみましょう。
【地球の晴れた空はなぜ青いの?】
空に何か青い光を発するものがあるから青いのかな? でもそんなもの、ちょっと思いつかないな。空ってだだっぴろくひろがっている空間だもんね。じゃあ、その青い光を放っているのは誰? まわりを見ると、どうも光を出しているのは、太陽ぐらいしかいないようだね。
じゃあ太陽は青い光を出すの? そんなことないね。図2には太陽もあるけど、太陽のある場所から来ているのは、白っぽい光ですね。青い色は太陽のいない方向から来ていますよね。光を発しているのが太陽だけだとすると、太陽からあなたの方向とは違う向きに放たれた光が、図3(a)みたいになって、不思議なことに「青くなって」あなたの方へやって来るに違いない。じゃあ、図3(b)のような仕組みが何かあるのかな。太陽を出た時は透明だったのに、どこかでその光を青くして、方向をひん曲げて、あなたのところに届くようにする魔法使いがいるのかな。
そのとおり。魔法を使っているのは、太陽と私たちの間にある地球大気に浮かんでいる「粒」です。そんな粒には、「空気の粒」つまりチッ素や酸素などの分子もあるし、その他にも、花粉もあるし、エアロゾルといって、粉塵(ダスト)とか煤塵などと呼ぶ塵、水滴などもありますね。どのような粒がその魔法使いになっているのでしょうか。
太陽から出た光は、あなたのいる地上に届くまでに、いろいろな粒にぶつかると四方八方に散らばっていきます。これを「散乱」と言います。その散乱の仕方について勉強してみましょう。
太陽の光をプリズムというものに当てると、図4のように7色に分かれる実験をしたことがあるかも知れない。
太陽の光は透明みたいだけど、実際にはいろいろな色の光が混じり合っている結果、透明(白色光)になっているんですね。そしてその光の波が進んでいくときの歩幅(波長)は、赤っぽい光は大きく、青っぽい光は小さいんです(図5)。
太陽の光が、空気中の粒にぶつかった時、粒が大きい時と小さい時とでは、散乱の仕方が違うんです。空気中に浮かんでいる粒のうち、チッ素や酸素などの分子は、光の歩幅に比べると非常に小さい(図6)けれど、塵や花粉は光の歩幅と同じくらいの大きさなんです。すると散乱のされ方が異なっています。
光が、自分の歩幅よりかなり小さい粒にぶつかったときの散乱を「レイリー散乱」、歩幅と同じくらいの大きさの粒とぶつかったときの散乱を「ミー散乱」と呼んでいます。太陽の光と空気中の粒の話で言えば、
・花粉やエアロゾルの粒は、光の歩幅と同じくらいの大きさなので「ミー散乱」
・チッ素や酸素などの分子は、光の歩幅よりうんと小さいので「レイリー散乱」
になるんです。
レイリー散乱を深く研究したイギリスのレイリー卿(ジョン・ウィリアム・ストラット 1842-1919)(図7)によると、レイリー散乱は光の歩幅が小さいほど激しいそうです。ということは、赤い光はあまり散乱されないけど、青い光はどんどん散乱されていくんですね。そしてミー散乱を深く研究したドイツのグスタフ・ミー(1868–1957)さん(図7)によれば、ミー散乱は光の歩幅によらず、同じように散乱されるらしい。だから霧やスモッグが白く見えるんですね。ミー散乱が光の色の違いによらないのなら、色の違いに影響するのはレイリー散乱だけということになりますね。
というわけで、晴れた日の青空は、太陽の光が、大気中のチッ素や酸素などの分子によってレイリー散乱を受けた結果起きる現象だということになりました。
赤っぽい光は散乱しにくく、青っぽい光は散乱しやすい! 光が長い旅をすればするほど、青系統の色はどんどんあらゆる方向に散らばっていき、赤系統の色はそれほど散らばりません。太陽のいない方向からくる光は、あまり赤い光がなくて、あちこちに散乱されまくった青い色ばかりが届く──これはレイリー散乱が原因だったわけですね。(図8)
どうでしょう、晴れた日の空が青い理由は納得がいきましたか? では次回は、いよいよ夕焼けの話をしましょう。
【先週の宿題の答え】
みなさんの身の周りで、二酸化炭素の液体をなぜ見たことがないのか? 先回掲げた「二酸化炭素の状態図」をもう一度見てみましょう(図8)。
みなさんの生活している地上の気圧は、1気圧ですね。状態図の縦軸に「1」(気圧)の目盛りがありますね。その縦軸の「1」のところから右へたどっていくと温度が高くなっていきますね。縦軸の上では、二酸化炭素が固体の状態であることが分かります。そう、ドライアイスですね。右へたどって-78.5℃のところで、二酸化炭素はいきなり気体になっていますね。つまり二酸化炭素は、みなさんの身のまわりの1気圧では、どんなに温度を調整しても液体にはなれません。
もし火星の大気に何か大事件が起きて、気圧が5気圧になったとすると、また横にたどる(温度を上げていく)と-56.4℃で「三重点」に飛び込みます。これは、気体・液体・固体の混じり合っている状態です。これにめげず右へ進むと、二酸化炭素は気体になります。気圧がそれより高くなると、二酸化炭素は温度次第で気体にも液体にも固体にもなることができます。
気圧が5気圧を越える所なんて、地球上で探してもなかなか見つけることはできないでしょう。だからみなさんも二酸化炭素の液体に出会ったことがないわけです。
<出典>
(図2) creative commons
(図4) Adobe Stock
(図5) creative commons
(図6右) mycraft
(図7) レイリー卿:Wikimedia Commons
グスタフ・ミー:BAMS, vol.89, Number 12, December 2008
(図8) 国立科学博物館「宇宙の質問箱」より(https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/resource/tenmon/space)
(図9) 理科年表