今回は「なぜ火星では液体の水滴の雲ができないのか」という秘密について考えて、「火星には雨が降らない」の議論を終えましょう。
水や二酸化炭素など普通の物質は、温度と圧力が決まると、固体か液体か気体かが決まります。たとえば水(H2O)の場合、皆さんが生活している地上は圧力が1気圧というほぼ一定値で、温度(気温)について、0℃と100℃を境にして、固体(氷)→液体の水→気体(水蒸気)になることは知っていますね。温度と圧力によって、その物質がどういう状態をとるかを表した図を状態図と言います。
図1は水の状態図、図2は二酸化炭素の状態図です。図1、2の中央付近にある3本の曲線が交わったところは三重点といい、固体・液体・気体の状態が共存します。(臨界点とか超臨界状態などは、無視してください。)
前回述べたように、火星の大気圧は約0.006気圧です。図1で縦軸の0.006気圧を右にたどっていきましょう。三重点にぶつかりますね。その右はずっと気体です。水蒸気なのです。火星では大気圧が0.006気圧以下なので、右へ進む(温度が高くなっていく)と氷は直接水蒸気になり、逆に左へ進む(温度が低くなっていく)と水蒸気は直接氷になってしまいます。ということは、火星の大気に含まれている水蒸気が上昇して温度がどんなに下がっても、途中で安定して液体の水になることはできません。図1のように直接固体(氷)になってしまいます。つまり氷の粒の雲はできても、水滴の雲はできないわけです。
どうでしょうか。火星で雨が降らないわけ──納得しましたか。でも雪は降ることができそうですね。
せっかく図2を見せたので、ちょっと宿題を出しましょう。みなさんは息を吐く時に二酸化炭素を吐き出しているんでしたね。二酸化炭素の固体(氷)が「ドライアイス」って呼ばれていることも知っていますね。では私たちの周辺に二酸化炭素の液体を見かけたことがありますか。きっとあまりないでしょう。それはなぜでしょうか。図2を見ながらその理由を考えてみてね。解答は次回に。