さあ、そこでいよいよ今回は火星の夕方の話をしましょう。その前に、11月4日にこのコラムで書いた、「レイリー散乱」と「ミー散乱」のことをもう一度読み直すことをお勧めします。
【復習:地球の空と夕焼け】
光の波には、進むときの歩幅に相当する「波長」というものがあって、光が進んでいくときに障害物に突き当たると、その障害物の大きさが波長より小さい時は「レイリー散乱」、波長と同じくらいの大きさかそれ以上だと「ミー散乱」を起こします。
地球はかなり厚い大気に包まれているので、浮かんでいる塵やゴミなどよりも、大気を構成している分子(主にチッ素や酸素)の方が格段に多いのですね。そして分子の大きさは人間の眼が見ることのできる光(可視光線)の波長より小さいから、地球に飛び込んできた太陽の光(可視光線)は、圧倒的に「レイリー散乱」を受けることになります。
「レイリー散乱」は、波長が小さいほど大きいので、青い光の方が赤い光よりも散乱が激しい。逆に赤い光はあまり散乱されないで比較的まっすぐやってくることになりますね。すると、太陽から発した赤っぽい光は、私たちの目まで比較的そのまま届き、青っぽい光はあちこちで散乱されながら、私たちの目にあらゆる方向からやってくることになる。これが昼間の空(図1)。
ところが、地球の夕焼けでは、空気の層が厚くなって光の通過距離が長くなるので、青い光は散乱しすぎてしまう。一方、私たちの目に届く前に赤っぽい光の散乱はより強くなって、太陽に割と近い範囲から赤い光がたくさん目に届くようになります。以上が夕焼けが赤い理由(図2)。
どうでしょうか。しつこく復習しました。
【火星の夕焼けの見え方】
ところが、火星の大気はうんと薄くて、地球大気の100分の1以下ですから、太陽の光を邪魔する大気分子(主として二酸化炭素)はあまりないのです。その代わりに大気に浮かんでいる塵がたくさんあります。どうしてかと言うと、火星大気はほとんど水を含んでいないので、大気の上下方向の温度差を調整する働きが弱いのです。すると、地上の塵は、上へ上へと常に吹き上げられていて、大気中にはいつも塵が舞っている状況が起きているのです。
火星の大気がたくさん含んでいる塵が、太陽の光を散乱させる重要な犯人になるわけですが、その塵の大きさは、「レイリー散乱」を起こすようなものではなく、「ミー散乱」が主となるくらいの大きさなのです。そして赤い光がいちばん散乱されるような大きさなので、地球の場合と全く反対の現象になってしまいます。
みなさん、それでは赤と青について地球と反対のことが起きるなら、解答は想像できるでしょう。そうです。火星の昼間の空は赤っぽくて、夕焼けは青っぽいのです(図3,4)。
ここまで、クドいくらいに同じようなことを繰り返し書いてきました。でも大事なことなので、クドクドと読み直して納得するようにしてくださいね。でも、どうですか。火星に出かけて、赤い昼間の空や青い夕焼けを眺めてみたい気がしますか?