先回は、晴れた日の昼間の空がなぜ青いのかを考えました。そうしたら、ある小学生から質問が届きました──「青い空の方向からは赤い光は全然来ていないのですか?」 私はびっくりしました。同じ質問を私自身が小学生の時に先生にしたことがあったからです。赤い光は空気を作っている分子の粒で散乱しにくいとは言っても、少しは散乱しているはずですよね。だから、太陽とは違う方向に目を向けると、その方向から赤い光も来ているはず。ただし青い光に比べて圧倒的に少ないんだね。人間は自分の目に飛び込んでくる光の量でその光の色を感じるから、たくさん届いている色が青だと、青空に見えてしまうんだと思う。私が小さい頃も、そういう納得の仕方をした。
実は私があのとき先生にした質問がもう一つある──「紫色の方が青色より散乱しやすいのでしょ? じゃあどうして空が紫色に見えないんですか?」
先生の答えは、「私もよくは分からないけど、紫は散乱しすぎて、上の方へ逃げるのも多いから地上に届く量が少なくなっているのかもな」ということだった。そのときはそれで何となく「そうなのか」と「思わされた」けど、実は大きくなって初めて飛行機に乗ったとき、空が「青い」というよりは「藍色」から「紫色」っぽい色に見えることに気づいて、突然あの小学校時代を思い出した(図1)。あの先生の説明、正しかったみたい……。
実際は、人間の目は、紫色への感度は青色への感度に比べて10分の1くらいらしい。
でもおかげで、今回のテーマである「地球の夕焼けはなぜ赤い?」という疑問が説明しやすくなるような気がします。昼間と夕方の太陽の位置を図2に描いてみました。地上にいるあなたから見て、昼間と夕方で違っているのはどこだろうね? 第一に、太陽が真上にあったのが、低い位置に移ってきた。第二にそれにともなって、太陽が大気の層を旅する距離が長くなっていることが分かります。そうすると、レイリー散乱でどんなことが起きるかな? 紫や青い光はますますあらゆる方向に散乱するし、赤い光も少ないなりにますます散乱するに違いない。
すると青には、昼間の紫と同じ現象が起きて、光が散らばり過ぎる。赤い光は、昼間の青い光みたいに地上のあなたの目に届く量が増える。地球を包んでいる大気の量がちょうどその程度になっているんだと思う。その結果が図3ですね。
日本語には、似たような言葉がいろいろある。「夕日」、「夕焼け」、「夕暮れ」、「夕闇」、……まだまだある。その違いは以下の通り。
・夕日:夕方の沈みつつある太陽
・夕焼け:日没の頃に西の空が赤く見える現象
・夕暮れ:日の暮れるころ
・夕闇:夕方のうす暗さやその時間帯
夕日と夕焼けは現象につけられた名前。夕暮れは時間帯。夕闇というのは「宵闇」とも言って、ひどく情緒的な表現ですね。私が小さいころ、こんな歌があった。
宵闇せまれば 悩みは果てなし 乱るる心に 映るは 誰(た)が影 ……
それぞれの言葉から連想する色があるんだけど、あなたはそれぞれ何色を心に浮かべますか。浮かんだ色をレイリー散乱で説明してみましょう。
そして、夕方の西の空ではなく、朝の東の空では、朝焼けという現象が起きる。このことについてもレイリー散乱と結びつけて考えてみるといいね。ついでだから、次回は「朝焼けと夕焼けの似たところ・違うところ」について話しましょう。
<出典>
(図3左) creative commons