この宇宙の片隅に
-館長による宇宙コラム-

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この宇宙の片隅に―館長による宇宙コラム―

宇宙に関わる仕事ってどんなことをしているの?

宇宙開発の大先輩 的川館長が宇宙についてのあれこれを楽しく解説します。
随時更新されるので、掲載をお楽しみに!

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「はやぶさ2」のいま(13)

【合運用に入る】

 「合」(ごう)という言葉を初めて聞く人もいるでしょうね。地球から見た時、リュウグウが間もなく太陽の向こうに重なってしまうような現象です。見える方向がちょうど「合う」のですね。この時は、太陽の光が明るすぎて「はやぶさ2」の姿など地球から見ることができません。そのことはまあ見えるようになるまで待てばいいだけのことなのですが、実は困ったことに、太陽が放射している電波が邪魔になって、地球局と「はやぶさ2」との交信が非常に難しくなってしまうのです(図1)。今回の「合」は、2018年11月下旬から1ヵ月あまり続きます。

図1 「合」の時の地球とリュウグウの位置関係 図1 「合」の時の地球とリュウグウの位置関係

 「合」によって通信がたどたどしくなることを考慮して、一応この間の運用を3つの時期に分けています。
 (1)11月18日~11月29日──太陽・地球・「はやぶさ2」のなす角度が6度~3度くらいまで減少しますが、まだ辛うじて通信は細々とできます。その間に搭載カメラで観測を行うほか、合が過ぎた後の運用も見据えて、「はやぶさ2」の姿勢も変えておきます。その軌道制御の作業は11月30日に予定されています。
 (2)11月30日~12月21日──太陽・地球・「はやぶさ2」のなす角度が3度以下になるので、しばらくはもう「はやぶさ2」との直接連絡はできない状態になってしまいます。しかし「転んでもただでは起きない!」「はやぶさ2」チームは、この期間も「はやぶさ2」から送られてくる電波を受け取る「受け身の努力」だけはつづけます。何のためか?図1を見ると、「はやぶさ2」の電波が太陽のすぐそばをかすめて地球に届いてくることが分かりますね。すると、太陽の「大気」を通り抜ける時の「はやぶさ2」の電波の変化によって、太陽の大気の研究ができるのです。「電波科学」と呼ばれる分野の仕事ですね。
 (3)12月22日~2019年1月1日──合の期間を終えて「はやぶさ2」の仕事を元に復帰させる運用をします。2日間ほど観測して、12月25日に軌道を制御し、「はやぶさ2」は12月29日に微調整をし、なつかしい「ホーム・ポジション」に戻ります。小惑星リュウグウから20kmの位置ですね。
 そこからは、1月末のサンプル収集に向けて本格的な準備が始まるのですね。こう見てくると、「はやぶさ2」のチームには、暮れも正月もないようですね。相模原の管制室などでの年越しは、家族にとっても大変な年になりそう。

【チームのつぶやき】

 というわけで、合運用に向けていそがしく働いている「はやぶさ2」チームの一人が、次のような「つぶやき」をホームページに載せています。
 ──探査機は日本の臼田局から見えない時間に観測を行いますので、そのデータダウンロードは深夜の海外局の仕事になります。探査機は太陽の方向に居ますので、地球上で昼の国で「はやぶさ2」を追いかけることになります。まるで谷川俊太郎の詩『朝のリレー』のようです。『ぼくらは朝をリレーするのだ 経度から経度へと そうしていわば 交替で 探査機を守る』。──

 さて私たちは「はやぶさ2」のニュースを気にしながら、世界に目を向けて行きましょう。いろいろありますが、今日取り上げるのは、「ハッブル」です。

【「ハッブルの法則」を変更──先駆者ルメートルの名を追加】

 19世紀後半、アメリカが驚異的な経済発展を遂げて出現した桁違いのお金持ちの中に、巨大な天体望遠鏡を建設する夢を持つ人々がいました。そして1917年、カリフォルニアのウィルソン山に当時世界一の望遠鏡(口径100インチ=約2.5m)ができました。その大望遠鏡を使って、エドウィン・ハッブル(1889-1953)(図2)が遠い銀河を観測し、「宇宙が膨張している」という発見をしたのは1920年代の末でした。

図2 ウィルソン山の100インチ望遠鏡とエドウィン・ハッブル 図2 ウィルソン山の100インチ望遠鏡とエドウィン・ハッブル

 この頃にはすでにロシアの若き数学者アレクサンドル・フリードマン(1888-1925)が、アインシュタインの一般相対性理論を解き、「宇宙は膨張も収縮もする」という数学上の解を導いていました。しかし、この頃のアインシュタイン自身は、自分の作った方程式から出ているその結論は数学上のものであり、現実の宇宙が実際に膨張するはずがないと信じていました。
 ハッブルが宇宙膨張の証拠を見つけた当時、アインシュタインは、生まれ故郷のドイツからアメリカに移り、ニューヨークで研究していました。ハッブルの観測した事実をどうしても疑問に思い、1932年、学会でカリフォルニアに来た際、ウィルソン山天文台に足を運び、自分の目で望遠鏡を覗き(図3)、ハッブルからも熱心に説明を聞き、徹底的に議論をした結果、「仕方がない、宇宙は膨張している」とつぶやいたと言います。

図3 100インチ望遠鏡をのぞくアインシュタイン(後方はハッブル、1933) 図3 100インチ望遠鏡をのぞくアインシュタイン(後方はハッブル、1933)

 アインシュタインに、「静止した宇宙」という考え方を捨てさせ、ビッグバン理論の先駆となったこの大発見は「ハッブルの宇宙膨張」と呼ばれています。ところが、ハッブルの発見の数年前から、ジョルジュ=アンリ・ルメートルという天文学者(1894-1966)(図4)が、やはりアインシュタインの理論に基づいて「宇宙が膨張している」という論文を立て続けに発表していたのです。

図4 大学で講義をするジョルジュ・ルメートル 図4 大学で講義をするジョルジュ・ルメートル

 しかも宇宙が特異点から始まったというビッグバン理論のもとになるアイディアも示していました。また、ハッブルの観測から出た結論は、宇宙の誕生が約20億年前というものでした(それをもとに谷川俊太郎が「二十億光年の孤独」という詩を発表したことは有名です──図5)が、ルメートルは、今日ハッブル定数と呼ばれる膨張速度を決める定数も計算し、宇宙年齢を100億年~200億年と推定しています。この値は現在の最新の観測から得られた「138億年前」という値と見事に整合しています。ただ、ルメートルの論文は、フランス語で書かれていた上、掲載されていたのは知名度が低い学術誌だったので、ハッブルの発表の陰に埋もれる形になってしまったのです。

図5 谷川俊太郎さんのデビュー作 図5 谷川俊太郎さんのデビュー作

 ルメートルという人は司祭さんでした。自分の宣伝を決してしない謙虚な人物でした。それでいて、あまり人付き合いもいい方ではなかったらしいですね。でも科学の世界に残した業績は本当に素晴らしいもので、カリフォルニアの学会でルメートルが発表を終えた時、聴いていたアインシュタインが感動して立ち上がり、大きな拍手を送って、「私がこれまでに聞いた最も美しくて納得ができる説明だった」と語ったそうです(図6)

図6 ルメートル(右)とアインシュタイン(1932、カリフォルニア工科大学で) 図6 ルメートル(右)とアインシュタイン(1932、カリフォルニア工科大学で)

 こうした事情から、今年8月にウィーンで開催された国際天文学会(IAU)総会で、「ハッブルの宇宙膨張の法則」を、「ハッブル・ルメートルの宇宙膨張の法則」に変更しようという提案がなされ、圧倒的多数の支持で、この新名称を推奨すると発表しました。今後は広くこの呼び方が用いられることになるでしょう。きっとみなさんが出会う教科書や参考書も書き換えられるのでしょうね。



[図クレジット]
図1  宇宙航空研究開発機構(JAXA)  図2,3 Mt. Wilson Observatory  図4,図6 Caltech