この宇宙の片隅に
-館長による宇宙コラム-

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この宇宙の片隅に―館長による宇宙コラム―

宇宙に関わる仕事ってどんなことをしているの?

宇宙開発の大先輩 的川館長が宇宙についてのあれこれを楽しく解説します。
随時更新されるので、掲載をお楽しみに!

月間アーカイブ

「はやぶさ2」のいま(12)

【BOX-C運用をやりました】

 「はやぶさ2」が普段いるところは、小惑星リュウグウの表面から20km上空です。もっとも上とか下とか言っても、宇宙空間ではどっちか分かりませんね。リュウグウの表面から見上げて、そこに「はやぶさ2」がいれば、それが「上空」というだけですが……。ともかくそこを「ホームポジション」と呼びます。そこが「はやぶさ2」が滞在している「現住所」ですね。
 リュウグウ表面からサンプルを採取することが最大の目的ですが、それを実行していないときは、ホームポジションから出かけて行って、いろいろと調査活動をします。行く場所は、近くの空間に箱のような地域(BOX)を決めて、BOX-A, BOX-B, BOX-Cなどと命名しています。図1を見てください。

図1 BOX運用 図1 BOX運用

 まずBOX-Aは、現住所(高度20km)付近に留まって、ホバリングをしているオペレーション(運用)で、これが定常活動ですね。BOX-Bは、横方向へ出かけます。リュウグウの正面から少しずれた方向からリュウグウを観測します。BOX-Cはホバリングの領域を縦方向に広げて、低い高度で観測をします。

 さる10月27日から11月5日にかけては、BOX-C運用をしました。これは2回目のBOX-C運用で、10月30日に図1のBOX-C1に出かけ、高度5.1kmまで降りて、レーザー高度計や光学航法カメラでの観測をしました。そして11月1日には、図1のBOX-C2と呼んでいる高度2.2 kmまで降下して、先日のリハーサルでリュウグウ表面に着地させることに成功したターゲットマーカの撮影をしました。その写真が図2です。2-1では映っていなかったのが、2-2では「はやぶさ2」からのフラッシュを反射して光っていますね。参考までに、ターゲットマーカを投下した時のリハーサルの日に、望遠カメラを使って撮った写真も掲げておきます(図3)

図2 BOX-C運用で撮影したターゲットマーカ 図2 BOX-C運用で撮影したターゲットマーカ

図3 「はやぶさ2」の望遠カメラで撮影したターゲットマーカ 図3 「はやぶさ2」の望遠カメラで撮影したターゲットマーカ。

世界のニュースから

【ISSからのカプセル、太平洋に着水──「究極の魔法瓶」回収に成功】

 国際宇宙ステーション(ISS)に食料や物資を運んでそのままドッキングしていた日本の補給船「こうのとり」7号(図4)が、さる11月8日(日本時間)、ISSに別れを告げました。11日に「こうのとり」7号が大気圏突入のための噴射を終了した後、地上から指令電波を送って、「こうのとり」から回収カプセルを分離しました。

図4 ISSに別れを告げる「こうのとり」7号機 図4 ISSに別れを告げる「こうのとり」7号機

 回収カプセルには、ISSで宇宙飛行士たちが実験をしてつくったタンパク質の結晶などが収納されていて、これを地球に持って帰る初めての試みです。ISSから地球に物資を持ち帰る回収カプセルの技術を持っているのは、これまでアメリカとロシアだけ。将来の有人探査にもつながる技術だけに、その成否に世界が注目していました。
 「こうのとり」本体は、予定通り大気圏に突入して消滅しましたが、物資を持ち帰る回収カプセルは、午前7時すぎに小笠原諸島の南鳥島の近海に無事着水しました。やった! その後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、午前10時25分、海上のカプセルを船に引き上げ、回収に成功しました。
 もともとカプセルは、底面直径84cm、高さ約66cmの円錐台に近い形です(図5)。回収された写真(図6)を見ると、側面の断熱カバーが外れ、真ん中の銀色の筒が露出していますね。高度10kmあたりまで降下してきたときに減速パラシュートが開き、予定通りカバーが外れたものです。見る限りでは、大きな傷や変形などは見えません。

図5 大気圏に突入する回収カプセル(想像図) 図5 大気圏に突入する回収カプセル(想像図)

図6 海上から船に引き上げられたカプセル 図6 海上から船に引き上げられたカプセル

 大気圏に突入する角度を調整するために、このカプセルには、窒素ガスを噴射する装置が取り付けられています。それによって、大気圏での表面温度の上昇を抑え込んだのです。カプセルの底の部分は、シートがはがれていて、黒く焦げたところもありますね。高温大気との激しい闘いの跡です。
 一方カプセル内部は、2000度を超える高温に対して、内部を低い温度(およそ4度)に保つ設計がしてあります(図7)。電力を使わないで、真空を二重にする魔法瓶の構造と保冷剤を搭載し、その内部に実験試料が大事に入れられているわけです。内側の断熱には、有名な「タイガー魔法瓶」の技術が使われており、民間の高い技術が宇宙に進出したという意味でも快挙ですね。

図7 回収カプセルの構造 図7 回収カプセルの構造

 帰還の際にカプセルにかかる加速度は最大40G! 時速200km(秒速60m弱)でコンクリートにぶっつけても壊れないくらいの「魔法瓶」でなくてはいけないのです。JAXAから共同開発を打診されたタイガー社は当初ビビったそうです。無理もありません。開発に乗り出した決断と見事にやりとげた技術に敬意を表します。
 筒の容器に入っている医療研究用のたんぱく質結晶などは非常にデリケートな試料です。だから一足先に中身を取り出し、南鳥島から飛行機で輸送しました。今後筑波宇宙センターで状態の確認が慎重に行われます。また、カプセル本体は船で運ばれ、筑波宇宙センターに到着したあと、大気圏突入による影響を厳密に検査して、今後の設計に活かします。
 それにしても日本の技術陣は、またしても立派な仕事をやってのけました。拍手を送りましょう。参考までに、この回収に至るまでの道筋を図8に示しておきましょう。

図8 「こうのとり」7号機─打ち上げからカプセル回収まで─ 図8 「こうのとり」7号機─打ち上げからカプセル回収まで─

[図クレジット]図1~3,5~8 JAXA  図4 NASA