【「はやぶさ2」現在の状況──中間総括】
いろんなニュースをお知らせしたので、こんがらがっている人もいるかも知れませんね。そこで今回は、現在どういう段階にあるのかを、まとめておきましょう。
そもそも「はやぶさ2」の目的は、小惑星リュウグウに着陸し、その表面からサンプルを採取して地球に帰還することです。無事帰還した後は、その分析を通じて太陽系の起源、生命の起源に迫ることになります。
まず図1を見てください。これは宇宙航空研究開発機構(JAXA)が発表した「はやぶさ2」のミッション全体の流れです。
2018年6月末に目指す小惑星リュウグウに到着して以降にやるべき仕事の中で、最も重要なことはサンプルの採取で、それを1年以上かけて2回くらい行った後、インパクターという衝突装置を分離し、それをリュウグウ上空で爆発させて金属の破片をリュウグウに高速で打ち込みます。その時にできるクレーターにも降りて行って、3回目のサンプルを採取します。そして2019年末にリュウグウのそばを離れて地球に向かい、2020年末にオーストラリアに帰還するという筋書きです。JAXAが現時点で発表しているミッション・スケジュールは図2のようなもので、いまは太い点線のところ、つまり「合」運用を行っているわけです。「合」運用は、先回お話ししましたね。
初めの計画では、第1回目の着地・サンプル採取は、10月に予定していました。ところが、リュウグウ表面は予想よりもはるかに岩石だらけで、安全に降りられる場所がなかなか見つからなかったので、その第1回着地・サンプル採取を2019年(来年)の1月後半以降に延期しました。そして降下リハーサルを3度試みて、徐々に着地の予想精度を向上させてきています。
打ち上げ以来非常に順調だった「はやぶさ2」だけに、到着して約5か月も経って、まだ一度もリュウグウに降り立てないという現在の難関は、チームにとって大変な試練となっています。でも「はやぶさ2」のメンバーは、くじけるどころか意気軒昂にこの難題に挑んでいます。行って見るとリュウグウという相手は、初代「はやぶさ」とはまた一味違った手強い相手ですが、もともと困難に遭遇することは前提で挑戦しているミッションです。
高いところからの撮影(図3)で、赤道付近100m四方を候補地に決定し、中心を狙って50mくらいの誤差なら安全に着陸できそうだったのですが、9月から10月にかけて、小型ローバーなども使いながら詳細に調べてみると、予想をはるかに超えて、どこもかしこも岩石ばかりの実態が判明し(図4)、頭を抱えることになりました。
しかし劇的な戦果が、10月25日の最後のリハーサルで訪れました。「はやぶさ2」の現在の降下・着地精度を調べるため、着地の際の目印となる「ターゲットマーカー」を落としたところ、狙った場所からわずか15.4mのところに落とすことができたのです(図5)。それは、着地の誤差15mくらいが達成されたことを意味します。
こうして作戦計画は、「広い場所をどう見つけるか」から、「狭い場所にいかに正確に着陸するか」という積極果敢な転換をなしとげました。これは「はやぶさ2」が現地でかちとった成果です。だから現在は、着陸できる範囲を、直径わずか20mの場所に決めています。とはいえ、依然として、中心を狙って誤差10m以内に着地しなければならないという厳しい条件が、「はやぶさ2」チームにのしかかっているわけですね。
これから年末から年始にかけての懸命のデータ解析と議論で、着地誤差をもっと減らせるかどうか、そして「ターゲットマーカー」をどう使うか──この2つのテーマについて見通しを得たいものです。インパクターを使ったサンプル採取を含め、3回の着地計画に許されている期間は、帰還の準備を含めると、おそらくあと半年でしょう。みんなで応援して、チームに力を送ってあげましょうね。
さて「はやぶさ2」のことを一応まとめたので、私たちは世界の宇宙ニュースに目を転じてみましょう。今日は、アメリカの探査機の嬉しいニュースです。
【「インサイト」火星着陸に成功──超高感度の地震計で内部を調査】
さる10月27日米国の探査機「インサイト」が、火星着陸に成功(図6)。打ち上げたのは、今年の5月5日だったので、205日の長い旅でした。火星大気に突入すると、大気の抵抗を上手に使う「エアロブレーキ」で減速しながら降下し(図7)、最後はパラシュートを開いて、この日午前5時前(日本時間)、表面に軟着陸を果たしました(図8)。
「火星探査機」と言えば、現在火星にいる「キュリオシティ」のように、表面を動き回って観測している姿が頭に浮かびますが、今回の「インサイト」は、最近の火星探査機と違って、あちこち移動することはありません。「インサイト(Insight、洞察)」という名のとおり、着陸場所に落ち着いて、火星の内部の様子を調べることに集中するのです。
内部を調べるためには、表面の地形がどうなっているかはそれほど大切な要素ではありません。図のように大きく広げた太陽電池パネルから電力を得る「インサイト」なので、太陽の光をいっぱい使える赤道地帯の中から、エリシウム平原というところが着陸場所に選ばれました(図9)。赤道地域は陽の当たっている時間が長いですからね。
さて、チームは、これからいろいろと準備をして、来年の2月から3月ごろに、「インサイト」から地面に地震計などを直接降ろす予定です(図10)。構成は図11のようなもので、火星内部を調べるのに使う主たる機器は、地震計と熱流計です。熱流計は、地面を3~5 mの深さまで掘削し、火星内部の放射熱を測定します。特に注目すべき地震計は、フランスの国立宇宙研究センター(CNES)が開発した超高感度(図12)。ごくわずかな揺れでもキャッチできます。何しろ風がちょっと吹いても分かるほどなので、観測の時は風のノイズなどが混じってきて困ったことになります。そこで、熱や風の影響を最小限度に抑えるよう、大掛かりな真空包装の保護シールドが表面に取り付けられているくらいです。
地球の地震がプレートやマグマの運動に関連して起きていることは知っていますね。月の地震(月震)は潮汐運動や隕石の衝突で起きているらしい。火星はプレートに分かれている証拠はないけれども、地殻には断層があり、内部から上ってくる高温物質が、太陽系内で最大級の火山を作っています。地殻の運動は明らかにある。だから地震もあるはず。
いずれもっと詳しく説明しますが、「インサイト」の地震計のデータから、火星の地殻の厚さ、マントルが層をなしているのかどうか、中心部にある核の大きさ、核が液体か固体かなどが明らかにされるでしょう。火星の時間で言うと1年、地球の時間に換算すると2年にわたって、特に地震計がどのような揺れのデータを届けてくれるのか、楽しみですね。
[図クレジット]図1~5 JAXA 図6~12 NASA