この宇宙の片隅に
-館長による宇宙コラム-

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この宇宙の片隅に―館長による宇宙コラム―

宇宙に関わる仕事ってどんなことをしているの?

宇宙開発の大先輩 的川館長が宇宙についてのあれこれを楽しく解説します。
随時更新されるので、掲載をお楽しみに!

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リュウグウに液体の水(その3)

リュウグウが辿った数奇な運命


 ほんのわずかな量とはいえ、現在のリュウグウに液体の水があったというのは本当に驚きですね。チームは、今回発見された液体の水は、リュウグウの元になった天体にあったものだと推定しています。リュウグウがそこから生まれた天体、つまりお母さんの天体という意味で「母天体」と呼んでいます。

 「はやぶさ2」が持ち帰ったサンプルを分析して明らかになったさまざまなデータを使ってチームが実施した数値シミュレーションの結果を、さらに詳しく述べておきましょうね。図1を参照しながら読んでください。


図1 リュウグウのサンプルの分析結果から推定されるリュウグウの形成までの歴史(ⒸMIT、千葉工業大学、東京工業大学、東北大学) 
(クリックで拡大)

 リュウグウの母天体は、太陽系が誕生した時(今から約46億年前)から約200万年後、マイナス200℃以下という極低温の環境で形成されました(図1の1)。その母天体は大きさが100㌔㍍程度だったと推定されています。

 このときは、含まれていた水や二酸化炭素はもちろん凍っていました。ということは、母天体は、太陽からかなり遠い場所(おそらくは海王星以遠)で誕生したのです。そしてその後、アルミニウム26という物質の原子核が崩壊して発生した熱によって、母天体の内部で水と二酸化炭素の氷が溶け始め、300万年という長い時間をかけて最高50℃くらいまで温められたと考えられます(図1の3)。

 チームの計算では、当時の水と岩石の体積の比率は1:1程度だったそうですから、いわば温泉みたいな環境で、岩石の成分と水とが化学反応を起こして、いろいろな含水鉱物とか炭酸塩鉱物が生成したと思われます。リュウグウのサンプルのほとんどが、そのような物質で構成されていることが分かっていますが、それらはこの時期にできたのですね。

 先週掲載した珊瑚礁のような形の結晶(図2:再掲)は、当時水が大量に存在していたことの証拠と言えるでしょう。ただし、銅と硫黄でできているようですが……。でも、今回の分析からは、この大量の水が、海のような状態で存在していたのか、あるいはスポンジみたいな多孔質の物質として存在していたのかは、はっきりしなかったようですから、それは今後の分析を待つことにしましょう。


図2 リュウグウのサンプルで見つかった珊瑚礁のような結晶(Ⓒ東北大学) 
(クリックで拡大)


 シミュレーションは、その後の歴史も明らかにしています。このリュウグウの母天体は、熱を提供していたアルミニウム26が減るにつれて温度が低下していきました。そして今から8億年くらい前に、直径が10㌔㍍くらいの天体がぶつかって破壊されました。そのとき大部分の水が失われたと考えられます。この衝突事件でバラバラになった破片の一部は、やがてお互いの重力で集まり、現在のリュウグウができあがったというわけです。まさに波瀾万丈のリュウグウの歴史です。

 さてそうなると、サンプル分析からは、1000度以上の高温にさらされた物質も見つかっていますから、このような太陽に近いところにあったはずの物質は、なぜ海王星あたりの冷たい空間に存在していたのでしょうか。そんな物質は、実はリュウグウにはほんの僅かしか存在していません。上に書いたように、約8億年前に母天体が衝突事件でバラバラに壊れた後に、今のリュウグウの形に再集積したわけですが、リュウグウが現在火星と地球の間の軌道上にあるということは、海王星の近くから移動してきたのですね。さまざまな物体が、母天体にもリュウグウにもぶつかって来たでしょう。そしてその大小の衝突のたびに、多彩な物質がリュウグウの表面にとどまったに違いありません。その量は決して多くはないけれど、その中には、太陽の近くで生まれて後に他の天体の影響で跳ね飛ばされた結果リュウグウにぶつかったものもあったということのようです。

 今となっては、これらのわずかな量の物質が辿った運命を追うことは不可能ながら、当時の太陽系は、物質がめまぐるしく移動し、千変万化の世界だったことが分かります。私たちのいのちも、こうした宇宙のかけらが組み合わさって誕生してきました。私たち一人ひとりは、本当に小さな存在だけど、このような壮大な背景をもつ宇宙の物質のかけらなのですね。

 リュウグウのサンプル分析は、今も世界中で精力的に続けられていきます。私たちと宇宙とのつながりがどんどん鮮明になっていく活動を、興味をもって見守っていきましょう。