この宇宙の片隅に
-館長による宇宙コラム-

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この宇宙の片隅に―館長による宇宙コラム―

宇宙に関わる仕事ってどんなことをしているの?

宇宙開発の大先輩 的川館長が宇宙についてのあれこれを楽しく解説します。
随時更新されるので、掲載をお楽しみに!

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「はやぶさ2」カプセルの回収(その1)

【なぜ回収するのか】

 来る12月6日、「はやぶさ2」のカプセルが地球に帰還します。現在オーストラリアに着陸すべく、「はやぶさ2」チームは最後の軌道修正オペレーションに取り組んでいるところです。そのカプセルには、小惑星リュウグウから採取したサンプルがかなりの量、入っていると思われます。そんな話をしていたら、ある小学生から質問を受けました。

──「隕石がもともと小惑星であるなら、わざわざ遠くへ出かけてサンプルをとって来なくても、地表に落下してきた隕石を分析すれば、同じ研究ができるんじゃないですか?」 

 もっともな疑問ですね。もちろん隕石も、もともとは小惑星ですが、隕石は大気圏突入をした後に溶けた残りであり、大気の激しい熱を受けて、変質もしているし、溶けやすい物質などが失われています。また、地球の物質によって汚染されてもいるでしょう。小惑星のサンプルを、その姿のまま研究するには、宇宙にいた状態のまま、地球に持ち帰る必要があるのです。サンプルを保護しながら地球に持ち帰るのが「再突入カプセル」です。


【どのように地球大気に進入させ、地上まで導くのか】

 「はやぶさ2」は、地球に帰還する最終段階では、地球のギリギリのそばを通り過ぎる軌道に、イオンエンジン(図1a)を操りながら近づいてきます。地球に近づいた後の軌道修正をTCM(Trajectory Correction Maneuver)といいますが、これを計5回、ガスジェット(化学推進系)で行います(図1b)

 TCM-1、TCM-2で軌道を微調整した上で、TCM-3で探査機の軌道をいったんオーストラリアに向かう軌道に調整します(図2)。そして、TCM-4で調整した後、再突入の約12時間前、地球からの距離が約22万キロのところで、「はやぶさ2」本体からカプセルが分離されます。そのときの「はやぶさ2」の速度にくらべると、分離の相対速度は小さいため、カプセルはほぼその軌道のまま地球に再突入してきます。

 もし「はやぶさ2」本体もそのままにしておくと、やはり地球に再突入してしまいますから、カプセルを放り出してから1時間後にTCM-5を行い、本体は地球のそばを通過する軌道に投入します。カプセルは、オーストラリアのウーメラへ、「はやぶさ2」は「バイバイ」して地球脱出軌道へ。これがTCMによるカプセル帰還のあらすじです。


図1 a:イオンエンジン b:ガスジェット(化学推進系)(クリックで拡大)

図2 軌道修正オペレーションのスケジュール(クリックで拡大)


【カプセルの再突入】

 カプセルには、制御装置はついていません。だから姿勢や軌道を制御することは、「はやぶさ2」から分離した後はできないのですね。ただし、分離の時に使うスプリングが、カプセルに3秒間1回転のスピンを与えてくれます。この独楽(こま)のようなスピンによって姿勢の安定を保ちながら飛ぶのです。だから分離の際の精度が非常に重要です。地球の重力で加速され、最終的には秒速12 キロの猛スピードで地球大気に突入してくるのですから。

 図3を見てください。突入時にはカプセル表面は大気との闘いによって受ける大量の熱で約3000℃の高温になり、明るく輝きます。この高温から内部を守るため、カプセル周囲はヒートシールドという耐熱材で覆われており、内部は80℃以下に保つように設計されています(図4)。高度約10キロまで降下したら、前後のヒートシールドを分離します。そして、サンプルが入っているカプセル本体のパラシュートが開き、ビーコン送信アンテナが露出して、ビーコン信号を発信しながらゆっくり降下して着地してきます。パラシュートは風によって流されていきますが、分離したヒートシールドは、あまり風の影響を受けずに別の場所に落下するでしょう。

 さて次回は、このカプセルを地上で待ち受ける回収班のメンバーたちがどのようにして見つけ回収に至るか、その方法についてもう少しくわしく紹介します。


図3 再突入から地上到達まで(クリックで拡大)

図4 回収カプセル (クリックで拡大)
(a) 「はやぶさ2」の回収カプセル
(b) 「はやぶさ2」回収カプセル分解図
(c) 「はやぶさ」初号機のカプセル模型



[図クレジット]図1~4 JAXA