アメリカ版「はやぶさ」というと失礼かも知れませんが、NASA(米国航空宇宙局)の探査機「オシリス・レックス」(図1)は、さる10月21日午前7時10分過ぎ(日本時間)、地球から3億キロ以上離れた小惑星「ベンヌ」への着地を試み、成功しました(図2)。着地点は、「ナイチンゲール」と命名されている場所でした(図3)。
「オシリス・レックス」は21日午前2時半すぎに、「ベンヌ」の上空770mから降下を始めて(図4)着地し、ロボットアームの先に取り付けた装置(TAGSAM)が地面に接触し、先端から窒素ガスを噴射して舞い上がった表面の石や砂などを採取しました(図5)。目標としていた60グラムを大きく超える試料を確保できたらしく、採取したサンプルはおそらく数百グラムに達し、装置の内部から石や砂が溢れている模様です。着地の瞬間、NASAの「オシリス・レックス」コントロール・ルームは感動の嵐でした(図6)。新型コロナとの闘いの日々。みんなマスクをつけていますね。チームのみなさんに心からの「おめでとう」を申し上げます。
図4 降下するオシリス・レックス(想像図)(クリックで拡大)
図5 「オシリス・レックス」着地の瞬間(左)。舞う小惑星ベンヌの砂や石のかけら(右)
(オシリス・レックスの搭載カメラが撮影)(クリックで拡大)
NASAは今後、機体の内部に試料を密閉する作業を進め、2023年9月に地球に持ち帰る計画です。
これで、小惑星からの採取成功は、日本の「はやぶさ」「はやぶさ2」に続いて3例目となりました。予定される2023年に地球に帰還すれば、そのサンプルの分析を通じて、太陽系の進化や生命の起源などについて極めて貴重な情報をもたらすことでしょう。
「オシリス・レックス」は、2016年に打ち上げられました(図7)。探査機の重さは、「はやぶさ2」が約600 kgなのに対して「オシリス・レックス」は約2トン。3倍以上あります。探査機本体のサイズは「はやぶさ2」が縦1 m60 cm、横1 m、高さ1 m25 cmなのに対して、「オシリス・レックス」は縦2 m40 cm、横2 m40 cm、高さ3 m10 cmと大型になっています。
「はやぶさ2」がターゲットにしたリュウグウと「オシリス・レックス」が訪れたベンヌは、どちらも地球と火星の間の軌道を回っている小惑星です。「リュウグウ」が直径およそ900 mで、炭素が比較的多い隕石に似た特徴をもっているC型小惑星なのに対し、「オシリス・レックス」が着陸した「ベンヌ」は直径がおよそ500 m。C型小惑星に似ているものの、構成する成分が少し異なると考えられるB型小惑星に分類されています。
リュウグウとベンヌを比較してみましょう(表)。大きさの比較や軌道の相違もあらためて図8、図9に示しておきます。
どちらも算盤玉のような形をしていて、生命にとって必要な水や有機物を含んでいます。2つの小惑星を比較することで、地球生命を生んだ水や有機物の起源の解明につながるため、JAXA(宇宙航空研究開発機構)とNASAとは、さまざまな協力の態勢をとり、それぞれが持ち帰ったサンプルの一部を交換する約束をしています。
既報のとおり、「はやぶさ2」は12月6日に地球帰還する予定で、現在帰路を急いでいます。2023年9月の「オシリス・レックス」ともども帰還に成功して、早く連携した分析が開始されるといいですね。今からとても楽しみです。
[図クレジット]図1,2,3,4,5,6,7 NASA 表,図8,9 筆者作成