南極にある日本の「昭和基地」のことは聞いたことがあるでしょう。ロシアの南極基地は「ボストーク基地」と名づけられており、その数百メートル地下には「氷底湖」といって、厚い氷の下に湖のあることが分かっています。「ボストーク湖」と命名されています (図1)。
この地球の「ボストーク湖」と同じような「氷底湖」が、火星南極 (図2)の地下にいくつも存在する可能性があるらしい──そんな調査結果がイタリアの宇宙物理学研究所のチームによって発表されました。この発見は、ヨーロッパの火星探査機「マーズ・エクスプレス」 (図3)のデータを分析してもたらされたもの。
たとえば 図4は、火星の南極地方をレーダーを使って火星周回軌道上の探査機から観測した結果を整理したもので、液体の水がある領域を青色で示してあります。この論文は、直径約30キロの大きな湖の周囲に少なくとも3つの小さな湖が存在することを示唆しています。その小さな湖には、一つあたり液体の水が100億リットル以上あると報告されているのです。
火星は私たちの住む地球に比べると温度が低くて、南極の表面温度はマイナス100℃よりかなり低温です。地下はそれよりは温度が高いと思われますが、それでも普通の真水だと凍った状態のはずです。それが「液体」の状態になっているということは、つまり塩分濃度がかなり高いということになるのでしょう。
みなさんは、水に食塩を混ぜると冷蔵庫でできる氷の温度が0℃より低くなり、食塩を増やせば増やすほど冷たい氷ができることを知っているかも知れません。だから、この火星の氷底湖が液体の水を湛えているならば、それは非常に塩分濃度が高い可能性があると思われます。試しに、氷水に食塩を入れて、温度計で温度を計ってみてね。
さて、それは困った! 何が困るのでしょう。火星には生命がいるかどうかを調べたい科学者がいっぱいいるからです。私たちのいる地球の海は塩っ辛い塩水です。その地球の海の5倍くらいの塩分濃度なら、生き物は何とか生きていけると言われていますが、それ以上になると生命維持は厳しくなります。そして海水の20倍くらいの濃さになると、もう生命は存在できません。私たちの地球の生命の兄弟姉妹の「いのち」がいるかもしれないと期待しているのに、これは困ったものだなあと、私は感じたのです。
でもまあ、この論文の主張している氷底湖の存在も、これからもっとデータを集めて、本当に確かであることをしっかり実証する必要があります。生命の存在の可能性も期待しつつ、これからの探査を楽しみにしていましょう。みなさんもそんなプロジェクトに参加するといいですね。
[図クレジット]図1 NASA 図2 NASA/JPL 図3,4 ESA