臨時ニュースです。「はやぶさ2」チームから朗報が届きました。現在世界中で「はやぶさ2」が2020年12月に持ち帰った岩石のサンプルを分析しています。はまぎん こども宇宙科学館にたびたび来て興味深い話を聴かせてくれている東北大学の中村智樹教授のグループが、サンプルから液体の水を発見したそうです。小惑星に液体の水がある! 世界初の発見です。
中村先生たちは、17個の粒子を分析しました。その中の一つ(図1)に、岩石内部に閉じ込められている液体の炭酸水を見つけました。その水は、太陽系が誕生した頃にリュウグウのご先祖さまの天体にあったもので塩や有機物をふくんでいます。
図1(A)東北大学のチームが分析したリュウグウの岩石サンプルC0002の光学顕微鏡写真(Ⓒ東北大学)(クリックで拡大)
図1(B)Spring-8の放射光X線CT分析で得られたサンプル内部のCT図(ⒸSpring-8/東北大学)
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水はどのような状態で発見されたのでしょうか?
図1のサンプルは、「C0002」と呼ばれていて、「はやぶさ2」が持ち帰ったサンプルの中で3番目の大きさです。そのサンプルを兵庫県にある「スプリング・エイト(Spring-8)」という施設でX線CT分析をしました。この方法は、サンプルをX線が通り抜けるときの「通り抜けやすさ」や「吸収されやすさ」の違いを利用して、材質や構造を調べます。サンプルを破壊しないで内部を調べられるので便利ですね。その結果、C0002の内部に数ミクロンの大きさの空洞が見つかりました(1ミクロンは1000分の1㍉)。その空洞に水が閉じ込められていたことが分かったので、マイナス120℃の環境で凍らせた上で取り出して詳しく分析したのです。
ありました! 水と二酸化炭素を主成分とする液体です(図2)。
図2 リュウグウサンプル中の6角板状の結晶(硫化鉄)の内部に発見された水とCO2を主成分とする液体。液体は数ミクロンの大きさの空孔で見つかった。©️東北大学、NASA/JSC、SPring-8
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しかも液体の炭酸水は、この空洞内の5ヵ所で見つかりました。これまでにも、隕石から液体の水が見つかったことはあります。でも隕石の場合は、地球大気に飛び込んだ後で地球上の水が混入した可能性もあるのでね。宇宙から直接持って帰ったサンプルを、地球上の物質が混じらないように、慎重に守ってきたたくさんの「はやぶさ2」チームの人々のご苦労が、ついにこうして「世界初の発見」として実を結んだのですね。
しかも、中村先生たちがサンプル片を切って中をのぞいてみると、ケイ酸塩だのカンラン石だの、これまでリュウグウが経験してきた熱的環境や水との交わりを表現してくれるさまざまな物質もあって、まさに興奮するような「研究者冥利に尽きる感動」を味わったようですよ。
今回の発見は、これにとどまらず、リュウグウそのものの歴史や太陽系・地球生命の起源、地球の海の起源などとも関わる非常に興味深いストーリーにつながっているんです。せっかくだから、火星の大気の話をひとまず措いて、この「リュウグウの液体の水」にまつわる一連の話について次回も語ることにしましょうね。