1 火星大気の大部分は二酸化炭素
さて、火星への出張を空想しているうちに、横浜の科学館では、JAXAの次の大型ミッションMMX(火星の月フォボスのサンプルリターン計画)についての連続講演が始まりました。さる9月10日(土)に東京大学の宮本英昭先生が第1回講義「未知の天体フォボス 発見の予感」をZoom, YouTubeを通じて届けてくれました。大変分かりやすく、とてもためになる、いい雰囲気の話でした。
この連続講演とつながりの深い火星について、しばらく語っていくことにしましょう。まず火星を包んでいる大気についての話から始めましょう。
みなさんは地球に住んでいて、その空気(地球の大気を特に「空気」と呼びます)を呼吸していますね。酸素を吸って二酸化炭素を吐いているんですよね。空気には窒素が78%くらい、酸素が21%くらいあるんですよね(図)。酸素がだいぶあるから、楽に呼吸できますね。高い山などに登ると、空気が薄くなるので息が苦しくなるという話を聞いたことがあるでしょう。地球の地上での大気圧は約1気圧なのですが、高いところへ行くにつれて大気圧が低くなっていき、たとえば富士山の頂上(3776メートル)だと大体2/3気圧くらいまで下がります。酸素が少なくなっていくんです。
火星に行くと私たちは地球上と同じように呼吸できるのでしょうか。それはちょっと無理なようです。だって火星の大気は非常に薄くて、地上の大気圧は0.006気圧程度しかないんです。それに吸う酸素そのものが火星全体にほとんどないんですから(0.1%ちょっと)。火星の大気は、ほとんど(95.3%)が二酸化炭素、次に多いのが窒素(2.7%)です。だから火星表面で生活するには宇宙服を着ていなければ無理。
二酸化炭素が多いとなると、気になるのは「温室効果」ですね。でもね、火星の大気は薄いから、温室効果の効き目もあまりなくて、せいぜい気温を5℃くらい上昇させるだけです。一方地球の大気の中で温室効果のいちばん大きいのは水蒸気です。水蒸気が地球の大気の温度を33℃も上げてるんです。地球の大気にはふつう水蒸気が1%以上含まれています。火星大気も水蒸気を含んではいるのですが、その割合は0.03%程度ですね。それに元々の火星大気が0.006気圧なんだから、火星の場合は温室効果への水蒸気の寄与は小さいですね。
それともう一つ火星大気と地球大気の違いについて、見逃してはいけない大切なことがあります。火星では雨が降らないということです。どういうことでしょうね。それは来週。