この宇宙の片隅に
-館長による宇宙コラム-

この宇宙の片隅に 館長による宇宙コラム
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この宇宙の片隅に―館長による宇宙コラム―

宇宙に関わる仕事ってどんなことをしているの?

宇宙開発の大先輩 的川館長が宇宙についてのあれこれを楽しく解説します。
随時更新されるので、掲載をお楽しみに!

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空想・火星基地出張 その6── 地球帰還を前にして

 こうして、「火星人は本当にいるのか、いないのか」決着がつかないまま、人類は1957年10月を迎えました。この月の4日、地球上にそのころ存在していたソビエト連邦(ソ連)という国が、史上初めて地球を回る人工衛星スプートニクを打ち上げました。このとき人類は、地球表面に限定された束縛から解き放たれ、宇宙時代に突入したのです。

 私がこうして、火星のイトカワ基地にいてみなさんに語りかけることができるのも、元はと言えばこの宇宙時代の成果なのですね。それから半世紀ちょっと経った2011年、地球上のお金持ちの国ばかり15ヵ国が力を合わせて、「国際宇宙ステーション」というサッカー場くらいの施設を地球周回軌道に作り上げました。

 このように、スプートニクから半世紀間くらいは、宇宙開発に挑んでいる国はそれなりに協力しながら頑張っていたのですが、やがて新型コロナというウイルスが人類に襲いかかり、そのさなかの2022年2月、あのソ連のほとんどを引き継いだロシアがウクライナに侵攻するという事件が起き、世界の国々の対立が先鋭化していきました。当時、台頭著しかった中国も独自の宇宙開発を精力的に進めていました。私の生きている時代から見ると、そのころ人類の宇宙活動が新しい時代に入りつつあったようで、人類は2010年代あたりから「第二期の宇宙時代」に入ったと考えられています。

 あの「コロナ-ウクライナ侵攻時代」の対立の危機を、人類は見事に乗り越えたのは、その時代にまだ子どもだった人たちが、一生懸命に力を合わせて頑張ったからですね。

 え? あなたは今2020年代に生きていて、まだ子どもなんですか? それじゃあその一番頑張った世代なんですね。私の時代には、みなさんの世代を「英雄世代」って呼んでいるんですよ。

 という「空想」の「火星出張」のおしゃべりをしている間に、地球の本社から帰還命令が届きました。来週にはこのイトカワ基地を出発しなければなりません。「空想」の連載は今週限りです。

 私つくづく思うんですが、やはり長く火星で生活している人にとって淋しいことは、地球の月みたいなロマンティックなお供の星がないことですね。まあ、日本のイトカワ基地は、最初に人類が着陸したエリシウム火山に近いところにあるので、幸い火星の2つの衛星フォボスとダイモスを両方存分に見ることができるんで、少しは慰めになりますけどね。けど、光は淡いなあ。

 この小さな2つの月はね、火星飛行での中継地点としてはちょっと使えないのですが、有人基地建設の初期には、通信の中継基地として大きな働きをしてくれました。おもしろいのはね、フォボスの脱出速度がわずか時速50キロくらいだということです。もちろんダイモスではもっと小さいです。脚力のすぐれた人ならね、思い切ってジャンプすれば、フォボスの重力を脱出して一時的に火星の人間衛星になることだって不可能ではないんですよ。

 それとね、火星のすぐ外側の軌道には、無数の小惑星が回っていて、その中の大きなものが、キラキラと光っていてとても綺麗なんですよ。これは予想もしない幸せなことでした。今ではね、こうした異星の空を楽しむために、地球からツァーが組まれるような時代になってしまいましたけどね。まあ、この昼と夜の「異星情緒豊かな」景色を見れば、それも当然と言えば当然でしょうね。

 昨日会ったある高校生はね、火星で生まれたんだそうです。彼は自分が初代の勇敢な火星開拓者の子孫であることを誇りに思っている、と言っていました。いいですねえ。彼の表情は、いつか教科書で見たアメリカ人がピルグリム・ファーザーズを語っているような感じでした。

 まあ、こんな準備作業があって初めて、私みたいに定年後に建築会社に勤め始めた人間が、この立派なイトカワ基地に立つことができるわけです。こうやって長話をしているとね、何か自分が人類の情熱の蓄積に支えられて生活しているって実感が湧いてきますねえ。

 え? これから出発まではどうして過ごすのかって? 実はこれからアメリカのフォン・ブラウン基地に出張して、一つあちらの企業との商談をまとめなくてはいけないんです。なんでもあの近くには、太陽系の初期の様子を留めている場所を氷漬けにしてある「原始太陽系公園」っていう場所があるそうなので、子どもの土産でも買ってきますよ。そうそう、そういえば、そこを最初に着陸してサンプルを採取して地球に帰還したのは、日本のJAXAっていうところの探査機だったそうですよ。確かMMXっていう名前だったかな。

 ここから外が見えるんですけどね、今は三日月のフォボスが光っていて、とても綺麗ですよ。(空想・火星基地出張・完)