【米国の有人飛行に新時代──「クルードラゴン」宇宙船がISSから帰還】
日本が「はやぶさ2」のサンプル採取に沸いているころ、海外でも大きなニュースが舞い込んでいます。その代表格は、米国のベンチャー企業、スペースX社が開発した新しい有人宇宙船「クルードラゴン」(図1)が、3月2日にフロリダを飛び立ち、国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングした後、3月8日にISSから分離し、地球に帰還したことです。
今回の飛行はテスト飛行なので、宇宙飛行士は乗っていません。今後予定されている2回目のテスト飛行も順調に進んで、安全性についての信頼がしっかりと評価されれば、7月に2人を乗せる有人飛行に踏み切る予定になっています。何しろアメリカは、2011年にスペースシャトルが引退してからは、自力で人間を宇宙へ輸送する手段を何も持っていなかったのですから。宇宙輸送に新しい時代が到来しそうですね。
さてその「クルードラゴン」は、米国時間の2019年3月2日、米国フロリダ州ケープカナベラルから打ち上げられました
(図2)。クルードラゴンを搭載したロケット「ファルコン9」は第1段ロケットが再使用可能で、これまでの打ち上げと同様、発射から10分後に地球に戻り、ドローン船(無人船)に着陸しました。
今回の飛行は、「デモ1」と呼ばれるテスト飛行(無人)です。実際に軌道を回りながら新しいハードウェアの不備や欠陥を発見したり、システムの動作をテストしたりするための飛行です。だから宇宙飛行士は乗っていませんが、その代わりに人形が乗っています(図3)。正確に言えば「人間の形をした実験機器」です。映画『エイリアン』に登場したシガニー・ウィーバー演じる人物の名前に因んで「リプリー」と命名されました。この人形にはセンサーがついていて、カプセル内の状態を監視したり、ISSに向けて飛行中の環境などをモニターするのです。
地球の形のぬいぐるみも乗っていて(図3の青い色)、「クルードラゴン」が微小重力に達すると、愛嬌たっぷりに浮き上がって、それを知らせてくれます。実用段階になった時に運ぶはずの飛行士や貨物の重さを想定して大量の「おもり」も載せ、さらに今回ISSで実際に使う機器や消耗品を約180kg積んでいます。
「クルードラゴン」は、翌3月3日、国際宇宙ステーション(ISS)に到着。新たに開発した自動システムを使って徐々に接近し、ISSへのドッキングに成功しました(図4)。その後、ハッチが開けられ、ISSに滞在中のNASAのアン・マクレイン飛行士らが宇宙船に入って、操縦席に座っている人形と対面し、物資や機器をISSに移しました(図5,6)。
ISSにドッキングして5日間宇宙に留まった「クルードラゴン」は、8日夕方(日本時間)、地球への帰還に向けてISSから分離しました(図7)。大気圏突入後にパラシュートを開いて減速し(図8)、約6時間後にアメリカ南部フロリダ州沖の大西洋に無事に着水(図9)。
アメリカは現在、地球周辺の宇宙ミッションは民間に任せ、月や火星への飛行などリスクの高い飛行については国が担当する戦略を打ち出しています。今回の打ち上げ成功がその戦略の見通しを明るくする大事な一歩になったと思われます。なお、ボーイング社も、4月に無人の宇宙船「スターライナー」(図10)をテストとして打ち上げる予定で、アメリカの有人輸送が再びその強さを発揮できる時代の足音が聞こえてくるようです。
[図クレジット]図1~9 スペースX/NASA 図10 ボーイング/NASA