この宇宙の片隅に―館長による宇宙コラム―

この宇宙の片隅に(22)──クライマックスを迎える「はやぶさ2」

2019年6月17日(月)

 月計画をひとまずおいて、クライマックスを迎える「はやぶさ2」について語りましょう。

【2つ目のターゲットマーカーを投下──誤差は3m!】

 さる5月30日、「はやぶさ2」は、小惑星リュウグウへ2度目の着陸をするための目印として、リュウグウの上空10mから新たに「ターゲットマーカー」を投下し、狙った場所からわずか3mのところに見事に落ちたことを確認しました(図1)

図1 2回目の着地目標とターゲットマーカーの位置

 私たちから3億kmも離れた場所で誤差3mというのは驚異的ですね。どんぴしゃりの極めて高い精度で投下できたことを意味しています。すでに紹介したように、「はやぶさ2」は昨年10月、1個目のターゲットマーカーをリュウグウへ投下し、そのときは、狙った場所から約15.4mの地点に落ちました。それが今回は誤差3m!

 「はやぶさ2」の場合、神奈川県の相模原にある管制センターから指令を出すと、片道20分近くかかって命令が届く勘定になるので、細かい作業にはとても間に合いません。だから「はやぶさ2」が降下を始めて、高度500mあたりまでくると、地上からコントロールすることはやめて、その後の着地からサンプル採取、離陸というオペレーションは、あらかじめ組み込まれている「はやぶさ2」搭載のコンピューターに頼って自律的に行います。

 相模原の管制センターでは、「はやぶさ2」が自律的な作業を終えて上空に舞い上がった後に、送られてくるデータを基にして、現場で何がどのように実行されたかを判断することになります。「自律的」とは言っても、しょせん人間が作ったプログラムなので、思った通りに動いてくれていると、それはそれは嬉しい気持ちになるものです。

 しかも1個目のターゲットマーカーで15mを越えた誤差が、今回は3mになったわけですから、「はやぶさ2」は1回の経験を生かして、急速に賢くなったわけです。

【ただいま熱い議論の真っ最中】

 そして6月12日から13日にかけて、「はやぶさ2」をリュウグウの表面近くまで降下させるオペレーションを実施し、表面の状態を念入りに調べるデータを手に入れました。現在それをもとにしてチームのみんなで熱い議論をしています。最終的に2回目の着陸を実施するかどうかを決定するためです。その結論は25日に発表します。

こういう議論の時には、いろんな人の性格がむき出しになってきます。「1回目にサンプル採取したんだから、もういいじゃないか。もう帰ろうよ」という消極派から、「地下のサンプルが見えているんだから、どんな困難があっても絶対チャレンジすべきだ」という断固たる強硬派まで、さまざまです。そしてみんなの意見とその論拠をしっかり見極めて、最終的にはプロジェクト・マネジャーが決定をします。もちろん、議論の過程では、プロジェクト・マネジャーも自分の意見を熱心に話します。議論を尽くした後は、プロジェクト・マネジャーの決めたことは、つべこべ言わないで、みんなで一生懸命に力を合わせて実行する──これが優れたチームの証です。

【さあ、6月27日、いよいよ地下物質の採取に挑戦する!】

 今年4月に、インパクター(衝突装置)を使って世界初となる小惑星への人工クレーターを作り出しましたね(図1)。その衝突によってリュウグウ内部からあふれ出てきた物質を採取するオペレーションにチャレンジするかどうかというのが、現在の議論のテーマです。これは、初代の「はやぶさ」もやらなかったことなので、「はやぶさ2」チームとしては、挑戦したい気持ちを持っていると推察します。プロジェクトがクライマックスを迎えているのです。

 できたクレーターのど真ん中は、調べた結果、さすがに岩だらけでした。そこに着地すると「はやぶさ2」の機体が損傷する可能性が高いので、現在着陸候補地として選んでいるのは、クレーター中心から20mほど離れたところにある、幅7mほどの楕円形の領域です(図1)。ここには、クレーターをつくるときにリュウグウに秒速2 kmで撃ち込んだ金属弾のショックによって噴き出た地下物質が、たくさん降り積もっていると見られています。これが採取できて地球に持ち帰られると、世界の科学者は狂喜するでしょう。

 ただし、図1を見ると分かるように、ここにも大きな岩がかなり存在しています。降りるとしても、かなり困難を極めるオペレーションになることが予想されます。出発前の着陸誤差が50mくらいと考えていた「はやぶさ2」チームは、リュウグウに到着してから、その表面の様子を見てショックを受けました。岩石だらけの地形の中から、非常に狭い着陸候補地が選び出され、要求された着陸誤差3 mを見事にクリアして、1回目のサンプル採取を成功させたのでした。今回も、図1の狭い楕円形の地域に、大きな岩石に触らないよう微妙な着陸オペレーションが遂行されるといいですね。

 なお、7月に入ってしばらくすると、太陽がリュウグウに接近してきて、リュウグウの表面がものすごく熱くなってきます。サンプルの採取はそれまでに行いたいので、やるとすればまずは6月27日あたりが着陸の候補日と予想されています。図2のような雄姿を心に描きながら、25日の決定発表を楽しみにしていましょう。

図2 リュウグウ内部からの噴出物を採取する「はやぶさ2」(想像図)

[図クレジット]図1 JAXA(資料をもとに作成)  図2 池下章裕//JAXA

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